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「自己暗示!!俺の記憶の一切が自己暗示で、なくなってる...。」 アスマの報告を聞いて、俺はその場で気絶したらしい。次に気が付いた時には上忍待機室のソファに寝かされていた。よろよろと起きあがって辺りを見ればそこには誰もいなかった。アスマも帰ってしまったらしい。ちぇー、ひどいよ、倒れた俺を看病してくれたっていいじゃないの! 翌日、俺は眠れぬ夜を明かし、おかげで部下たちとの待ち合わせにしっかりと遅刻してしまった。試験の時の遅刻はそういう予定に組み込まれたものだったけど、今回の遅刻はいくらなんでも職務怠慢だよな。 「先生おそーい!」 サクラの元気な声が眩しいよ、ははは。 「でっ、どんな任務なんだってばよっ!!」 ああ、ナルト、お前はいいよなあ、イルカに覚えててもらってるんだろう?いいなあ、いいなあ。じっとりとした目で見れば、ナルトは少し身を引いた。 「カカシ先生、なんか気持ち悪いってばよ...。」 「任務は受付所でもらってくるんだろう?さっさと行くぞ。」 サスケがさっさと受付へと向かう。お前はしっかり者だなあ、将来安泰って背中に書いてやりたいよ。 「あっれー?イルカ先生ってばどうしてこんな所にいるんだ?アカデミーは?」 ナルトが俺の聞きたかったことを代弁してくれた。出会ってからずっと思ってたけど、お前、思ったことを素直に口にする直進タイプだなあ。 「おいナルト、ここは受付所なんだからそんな私語はできるだけ控えめにしないとだめだろう。俺はお前たちが卒業して一旦担任職から外れたから受付をこなしてんだよ。」 「え、先生アカデミー辞めちゃうんですか?」 「いや、サクラ、アカデミーは辞めないよ。今は担任するクラスは持ってないが担当科目の一つをまかせてもらっているから授業にはたまに出るくらいだな。」 イルカが笑って話している。うう、なんか耐えられない。俺、どうすればいいんだよ。昨日失恋したばっかりだって言うのにこれから受付でイルカにほとんど毎日会わなきゃならないのっ!? 「カカシよ、」 火影が俺を哀れな者を見るように見てくる。どうやら事情を知っているらしい。そりゃそうだよな、アスマは火影の家系だから火影邸で暮らしている。つまり火影とは頻繁に会話するってことだ。うう、同情はいらないよっ!そんな目で俺を見るなぁああ!! 「おい、カカシ、任務を受け取るんだろう、さっさとしろ。」 サスケに促されて俺は渋々イルカ先生の前に立った。 「すみません、子どもたち、まだアカデミー気分が抜けないみたいで。はい、これが今日の任務です。」 資料を差し出されて俺はふるふると震える手で用紙を受け取った。うう、そんな、そんな普通に接するのは反則だよイルカっ!! 「任務がんばってくださいね。」 イルカににっこりと微笑まれて俺は無愛想なまでに表情を凍らせた。今更ながら、額宛てと口布で顔が半分以上見えないことに安堵した。 「はあ、どうも。」 俺は素っ気ない返事でイルカに背中を向けた。ここで逃げ出さなかった俺に拍手を!!歓声を沸き上がらせてくれっ!! それから失せ物探しは難航し、ようやく見つかったのは日が暮れる一歩手前だった。 「お前たちだらしないねえ、明日も任務だから今日はよく体を休めておくように。」 俺が言うとナルトがぶーぶー文句を言ってきた。 「そんなこと言ってカカシ先生はひとっつも手伝わなかったじゃんかっ!!」 「だってそりゃあ、お前たちの実力向上だってこの任務に含まれてるんだから俺が手伝っちゃ意味ないでしょ?それに早く帰らないと真っ暗になっちゃうよ?」 「カカシ先生が遅刻しなかったらちゃんと日中に帰れる時間までには終わってました!」 サクラが反論する。まあ、否定はしないけど、先生、今すごーい傷心でね、たぶん人生の中でも1.2位に入る位落ち込んでんのよこれでも。少しは労ってちょうだいよ。 「俺は帰る。」 サスケはさっさと帰ろうと身を翻した。うーん、賢いのか淡泊なのかよくわからん奴だな。 「よ、アスマ、」 俺は声をかけた。途端、びくつくアスマ。なんだよ人を死に神みたいにさ。 「よ、よう、任務報告か?」 「うん、そう。えーと、昨日は悪かったよ。なんか取り乱しちゃって...。」 俺は昨日を思い出して再び暗い方向へと意識が持って行かれそうになった。 「か、カカシっ!!報告書、出さなくていいのか?」 アスマに言われて俺はそうだった、と報告書を提出した。そして確認印を押されて、はい、終了っと。 「あー、なんだ、その、どうだ?お前、上忍師になるのは初めてだろう?」 「うーん、そうだねえ、まあ、今のところはそれなりに順調かな。今日はちょっと遅刻しちゃったけど...。」 俺はまた暗い方向へと向かって行きそうになった。駄目だな、こんなことじゃ。でも、忘れるなんてできないし、俺、どうしたらいいのかなあ。いっそのことしばらく離れるように長期任務を、って駄目だ、今は上忍師なんだからガキたちのことを最優先事項に持ってこないと。 「アスマの所はどうなの?確か、いのしかちょうトリオの所のガキなんでしょ?連係プレーが楽しみなガキたちだよね。」 言えばアスマはそうだな、と少し顔の筋肉を緩ませた。俺は結構子ども好きで、四代目が愛したこの里も好きで、里の仲間たちのことには聡い方だ。 「ま、くせはあるが、心根のいい奴らばかりだ。お前の所はどうなんだ?」 「うん、やっぱりそれぞれくせがあるけど、どの子もいい奴らだよ。仲間として信頼できる。」 アスマはそうか、と一言呟いた。それから連れだって廊下を歩いていたが、アスマは出口の方へと向かった。 「あれ?今日は待機の日じゃないの?」 帰ろうとするアスマに呼び掛けると、アスマは頷いて肯定した。 「俺は明日だ。カカシは今日なのか、ご苦労だな。」 アスマはくわえていた煙草を手に持ってあげて、またな、と言って帰っていった。 「あれ、はたけ上忍、お疲れ様です。」 そこにイルカがいた。 |